きっかけ
とある焼き鳥屋に行ったときのこと。メニューに、旨い鶏のスープがあった。
「これに麺を入れたら旨いだろうなあ」 そう思い立ち、当時和食の店を営んでいた自分の店で鶏でスープをとり、
市販の細麺を入れ、シメの一品として「とりそば」をつくった。
これが飲んだ後にあっさりと食べられると思いのほか好評。
しかし、手間がかかりすぎるために頻繁に出す事が出来ず
裏メニューどころか、幻のメニューのようになってしまった。
そのうち「今日はとりそば作った?」と電話で尋ねられるようになりました。
「とりそばの店をすればいいのに」という常連客も。
当事は濃厚なスープのラーメン店が増えつつあり、あっさり味の店は少なく、
あっさりとした「とりそば」目当てで来られる方もいました。
「とりそば」というラーメン店を出そう
どうせなら他にはないものを作ろう
一念発起し、専門店を出す事を決めたわたしですが、専門店としてやっていくには今のままでは不十分だと気付き、専門店として自信を持って提供出来るものに仕上げる為に課題を設けました。「見た目が美しいこと。」
「女性や年配の方にも好まれること。」
「安心して食べられること。」
「毎日でも飽きることなく食べられること。」
「他にはない一杯であること。」
これらを兼ね備えていることが、お店を出す上での最低限の課題でした。
「鶏の旨味を最大限に引き出したスープ」
シメの一杯ではないので、あっさりしているだけではだめだ。鶏の旨味を最大に引き出して、しっかりした、奥深い味わいにしなければならない。
汚れを丁寧に取り除き、下処理をしっかり施した鶏ガラ、モミジ、丸鶏などの組み合わせ、
煮込む時間、部位によって引き上げるタイミング、合わせる香味野菜など、十数パターンを試行錯誤。
その結果、白濁させない清湯スープにいきつき、
澄んだ黄金色の、すっきりしていながら味わい深いスープが完成しました。
「蕎麦のような麺」
スープを醤油ベースのタレに合わせると、まろやかな味わいに仕上がりました。出来上がったスープに何種類もの麺を合わせてみましたが、
細麺だとやや物足りない感じがするが、あっさりとしたスープに太麺は合わない。
和テイストが強いスープの為、和蕎麦の麺にも合いそうだった。
それなら、蕎麦のような麺にしようと出雲蕎麦の番手を取り入れ、
カンスイを最小限にして、やや細めの平打ち麺を選択しました。
「鶏と相性の良いキャベツ」
ラーメンの主役にはならないが、具にもこだわりたかった。何種類もの野菜を様々な調理法で試行錯誤した所、
鶏と相性のいいキャベツが最も「とりそば」に馴染みました。
極細の千切りにして、何度も水に晒す。
シャキシャキした食感から、スープを吸ってしなっとした食感まで楽しめます。
ネギは地元である牧石地区産の青ネギを使用しました。
「豚肉ではないチャーシュー」
チャーシューは鶏もも肉を使うことにしました。それはラーメンという枠にとらわれずに新しい鶏料理として確立させるためです。
しっかり縛り、山椒の風味を効かせたタレに漬け込んだもも肉を醤油ベースのタレで炊き、
ゆっくりと味を染み込ませることで、ホロホロと柔らかく、しっとりとした煮鶏に仕上げました。
1つの鶏料理としての「とりそば」
こうしてふとしたきっかけから裏メニューとして始まった「とりそば」ですが、ラーメンの域に囚われず試行錯誤を繰り返すことでようやく自信を持ってご提供出来るものとなりました。
開店当初からの「とりそば」、途中から加わった「塩とりそば」ですが、わたしは「完結」したとは思っていません。
材料のとれる産地や時期による味の変化、お客様の趣向まで
常に考えながら、しかし根本はぶれないように、より美味しいものを求めて常に進化してきました。
皆様のご愛顧のお陰で今日(2016年7月9日)をもって15周年という節目を迎える事が出来ましたが、
これからもより美味しい「とりそば」をご提供出来るよう探究していこうと考えています。